賃貸契約においての修繕義務と事故が起きた際の責任の所在について

/ J-REC公認不動産コンサルタント、宅地建物取引士

経年劣化によりぼろぼろになった畳の取替え義務について

 

 

Q:貸主さんに畳の取替え義務はありますか?

 

賃貸の契約期間が20年以上にもなる物件の借主さんから、「長年住んでいるから畳がすれてボロボロになってきている。ふすま紙も変色したりひび割れてきたりしているので、20年も経つので取り替えていただきたいと、貸主さんに伝えてほしい」との連絡が管理会社入りました。

その後、管理会社が貸主さんへそのことを伝えたところ畳もふすま紙も取り替えてかまわないが、費用は借主が負担するのが当たり前ではないか」との返答。

借主さんは、しばらく我慢して使用してきたがそろそろ限界です。畳だけでも取り替えてほしい」と要望していますが、貸主さんは取替えの費用負担を拒否しています。

雨漏りや設備の故障などの対応は貸主の義務になると思いますが、畳の取替えについても貸主にその義務があるのでしょうか?

 

A:建物に備えられている畳なども貸主の修繕義務対象です

 

貸主さんは、借主さんに建物を使用・収益させ、その対価として賃料を得ています。

貸主さんは、有償で建物を貸している以上、賃貸した建物に借主さんの通常の生活に支障をきたすような劣化や損傷等が発生した際には、修復等を行い、通常に使用できるようにしなければならない義務を負っています。(民法606条:賃貸人の修繕義務)

 

修繕義務の範囲は、雨漏りや備え付けの設備等の故障だけではありません。今回のように、契約時に居室内に備え付けられている畳やふすま等も修繕の対象となりますので、畳やふすまが劣化・損傷して畳・ふすまとしての品質・性能がなくなれば、原則として、貸主さん側に取替え・修繕の義務があります。

このことから、特別な修繕特約(※1)がない限り、貸主さんには畳の表替え・ふすまの張替え義務があります。

※1…例として、修繕特約に「畳の取替え・裏返し、ふすま・障子の張替え等の修繕は借主の負担とする」などの修繕特約がある場合、当該特約は有効となりますので、貸主さんの修繕義務は免除され、畳の取替え・ふすまの張替え等は借主さん自身の負担で対処することになります。

 

 

 

便器のひび割れによる漏水事故の責任所在について

 

 

Q:借主の放置が原因で生じた場合、事故の責任は?

 

アパートの1階に入居し、もうすぐ1年が経とうとする頃、入居者のAさんから「仕事から帰ったら、トイレの便器から水が漏れ、床が水浸しになっている。」と連絡があり、管理会社がすぐに現状の確認へ向かいました。

Aさんから事情を聞くと、「入居して間もなく便器に小さなひび割れがあり、少し水が沁みだしていることに気付いていたが、使用には何の支障もなかったので特に連絡をせずに放置をしていた。」とのことでした。

その時にAさんが見つけたひび割れが拡大し、今回の漏水事故につながってしまいました。

事故が発生し、発見が遅れたことで漏水が広がり、トイレ床部分の下地である合板も取り替える必要も出てきました。

そこで借主のAさんにさんに対し、『便器の取替えは貸主の費用負担で行いますが、床及び壁クロスの張替えの補修工事費用は全額負担していただきます』と伝えたところ、Aさんは「入居時にひび割れのある便器を貸したことに責任がある」とし、修繕の負担を拒否しています。

今回の場合、借主の放置が今回の漏水事故につながったと考えられますが責任・修繕の義務は誰が負うべきなのでしょうか?

 

A:借主が通知義務を怠ったことで拡大した損害については借主が費用を負担することになります

 

便器にひび割れが生じた場合、本来修繕義務を負う貸主さん側ではなく、借主さん側に修繕義務が生じる可能性についてですが、実際、その可能性はなくはありません。

民法は、貸主さんに修繕義務を課す一方、借主さんに対し、建物や設備に修繕の必要な不具合・故障を発見した時は、遅滞なくその旨を貸主に通知しなければいけない義務を課しています。(民法615条)

不具合を知りながら放置すると、不具合から生じる被害が拡大し、その分補修費用が増大する恐れがあり、上記のような通知義務を借主さんに対し課しているのです。

今回のようなケースにおいては、借主さんが便器の小さなひび割れを発見した時点で貸主さん、または管理会社がに通知し、便器の補修、または取替えを行っていれば今回の規模での水漏れは発生していませんでした。

借主さんが貸主さんへの通知義務を怠った事で事故が発生し、床・壁クロスの修補工事が必要が出てしまいましたので、その補修費用は借主さん側が負担すべき費用であると考えられます。

また、このような場合には経過年数の考え方は適用せずに、補修工事費用全額を借主さん負担になると考えるのが相当だといえるでしょう。