よくある、所有する賃貸物件内の修理立会い。
本来は借主さんの予定を確認し、事前に了承得た上で指定の日に対応することが多いと思います。
しかし、急遽事前の連絡をせず借主さんの居室に立ち入った場合、それを理由に借主さん側からの契約解除は認められるのでしょうか?
今回のトラブル・質問内容
貸主のXさんは、借主のYさんから、部屋に備え付けられているクーラーの修理を依頼されました。
そこで、貸主Xさんは業者を手配し修理工事日を借主Yさんに連絡したところ、借主Yさんは「その日はできる限り部屋にいるようにします。仕事の都合で難しい場合は仕方がないので、入っていただいても大丈夫なように片づけておきます。」と貸主のXさんに伝えていました。
その後、業者の都合で修理工事日が1日早まったのですが、貸主Xさんは借主Yさんに連絡をすることなく借主Yさんの居室に業者とともに立ち入り、修理作業の立会いをしました。
そしてその夜、貸主Xさんがクーラー修理の作業が完了したことを借主Yさんに伝えたところ、借主Yさんは、貸主Xさんの無断立ち入りを理由として損害賠償を請求するとともに、賃貸借契約を解除する旨の申し出をしてきました。
なお、貸主Xさんと借主Yさんとの間の賃貸借契約には、賃貸人は、建物の管理上特に必要があるときは、あらかじめ賃借人の承諾を得て、建物内に立ち入ることができるものとされ、賃借人は正当な理由がある場合を除き、賃貸人の立ち入りを拒否することはできないという条項が定められていました。
今回の状況において、借主Yさん側の主張は認められるのでしょうか?
次の目次でご説明していきたいと思います。
結論
◇借主Yさんの居室に貸主Xさんが無断で立ち入りした行為は、債務不履行または、不法行為に該当し、損害賠償義務を負担することになりますが、借主Yさんによる契約解除の主張は認められない
貸主さんがクーラーを修理するために借主さんに無断で賃貸建物に立ち入った場合、借主さんは債務不履行にあたるとして賃貸借契約を解除できるのでしょうか?
今回のケースと似ている案件の判例を元にご説明していきます。
【賃貸人が、賃借人に連絡を取ることなく立ち入ったことは、立ち入りについて賃借人の承諾を得るべきことを定めた賃貸借契約条項に反する債務不履行にあたるとともに、過失による権利侵害行為と認められ不法行為にも該当する】
と判示しました。(平成19年3月30日大阪地裁判決)
ですがその一方で、
【賃貸人には修繕義務があり、また、契約時の条項の定めがあること、もともとの修理予定日については賃借人の承諾があったことなどからすれば、賃貸人が修繕のために立ち入ることを許されていたと考えたとしてもやむを得ないといえ、信頼関係が破壊されていない】
として、契約解除を認めませんでした。
上記事案の判例からすると、今回のケースにおいても、貸主Xさんが借主Yさんの居室に無断で立ち入りした行為は債務不履行または、不法行為に該当し、損害賠償義務を負担することになりますが、契約解除までは認められないと考えられます。
今回のようなトラブルを回避するためのアドバイス
賃貸建物については、借主さんが占有権を有していますので、貸主さんは自ら所有する建物であっても、借主さんに無断で建物に立ち入ることはできません。
無断での立ち入りは刑法上の住居侵入罪に該当する可能性があり、民事上も債務不履行または不法行為に該当すると考えられています。
賃貸借契約書において、「建物の維持管理上必要があると認められるときは、賃貸人は建物内に立ち入ることができる」という立入条項が定められていることが多いですが、条項に従って借主さんに無断で建物に立ち入ってしまうと、今回のように予期せぬ責任を負う事になってしまいますので注意が必要です。
また、目次2でご紹介した裁判例では、貸主さんによる賃貸建物への立ち入り目的や、賃借人との事前のやり取り、条項の存在などに鑑みて信頼関係の破壊について否定をしましたが、個々のケースでは、貸主さんによる賃貸建物への無断立ち入りの状況や回数等から信頼関係が破壊されたと判断される可能性もあります。
その場合には、借主さんの契約解除の主張が認められることもあり得ますので、十分に気を付けなければなりません。
今回のようなトラブルを回避するためには、建物の維持管理に伴う点検や修理など、貸主さんが建物内に立ち入る必要がある場合は、必ず事前に借主さんの承諾を得ることは最低限守らなければなりません。
そして、万が一業者の都合などで同意を得た日程とは別のタイミングで立ち入りが必要になった場合にも、「1日早いだけだから問題ないか」や、「早い分には借主さんも助かるし、問題ないだろう。」などと判断をせず、必ず借主さんと連絡を取り、立ち入りに対し事前に了承を得ることが非常に大切になってきます。
不要なトラブルを起こさないため、事前にできる対応はできる限り行うようぜひ心掛けてみてください。