契約終了時のトラブル ◇ペット飼育禁止の特約に違反した借主に対しての賃貸借契約解除の要求は認められるのでしょうか。

/ J-REC公認不動産コンサルタント、宅地建物取引士

ペット可の物件ではない場合、ほとんどの物件の契約において「ペット飼育禁止」の特約を設けることが多いと思います。

そこで今回は、特約に違反した借主さんに対し賃貸借契約の解除の要求が認められるのかどうか、トラブル例とそれに近い実際の判例を合わせてご紹介したいと思います。

 

今回のトラブル・質問内容

 

 

貸主であるXさんは、借主Yさんとの間で建物賃貸借契約を締結しました。

なお、こちらの賃貸借契約において

1. 賃借人は、賃貸人の書面による承諾を得ないで、犬、猫などの小動物の飼育、または一時的な持ち込みをしてはならない

2. 賃借人が、1.のペットの飼育を禁止する条項に違反した場合には、賃貸人は通知催告の上、賃貸借契約を解除することができる

といった特約が定められていました。

ところが、ある日、借主のYさんが、居室内でフェレットを飼っていることが分かりました。

貸主のXさんは、借主Yさんに対し、フェレットの飼育を止めるように再三に渡り注意をしたのですが、借主Yさんはペット禁止条項の特約の存在については認めているものの、“近隣に迷惑をかけたり室内を汚損することもない”等と主張し、その後も飼育を続けている状態です。

そのため貸主のXさんは、借主Yさんがペット禁止特約に違反したとして、賃貸借契約を解除し、建物の明け渡しを求めることを検討しています。

そこで今回は、こちらの貸主Xさんの要求は認められるのかどうかを次の目次でご案内していきます。

 

 

結論

 

 

◇借主さんに対する賃貸借契約の解除、および建物の明け渡しが認められると考えられます

 

賃貸建物において、犬や猫などの飼育が自由に行われるとすると、主に居室内がペットによって傷つけられたり、ペットの排泄物が原因となって悪臭を放つなどが不衛生になり、また、近隣住民にも迷惑をかける恐れがあります。

そこで貸主さんはペット飼育禁止特約を設けることによりペットの飼育を禁止することになりますが、かかる特約は一般的に有効と考えられています。

今回の案件では、借主Yさんがペット飼育禁止特約に違反してペットを飼育していますが、貸主Xさんは形式的に特約違反の事実が存在するだけで賃貸借契約を解除することができるのでしょうか。

それとも、継続的な契約である賃貸借契約においては、ペットの飼育により建物内部が汚損される、悪臭を放つ、などの実際の被害が発生していなければ、契約は解除できないのでしょうか。

その辺りの判断の参考となる裁判事例を下記にご紹介します。

 

【賃借人は、ペット禁止条項の存在を知った上で契約を締結していたにもかかわらず、これに違反してフェネックギツネを飼育し、賃貸人が飼育の停止を求めたにも関わらず飼育を続けていることから、賃借人の行動を全体としてみると、賃貸人の指摘に耳を貸さずに自己の都合のみを優先させることに終始してきたものであり、賃貸人が契約解除の意思表示をした時点で賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊された】

として、賃借人に対する賃貸借契約の解除を有効とし、建物の明け渡し請求を認めました。(平成22年2月24日東京地裁判決)

上記の判例より、今回の案件においても、必ずしもフェレットを飼育したことによる居室内の汚損が認められなかったとしても、賃貸借契約の解除、建物の明け渡し請求が認められると考えることができます。

 

 

今回のようなトラブルを回避するためのアドバイス

 

 

裁判例は、一般的に、ペットの種類や飼育方法を限定することなく、一律に建物内におけるペットの飼育を禁止する特約の有効性を認めています。

貸主さんは、ペット禁止特約を定めることによって、ペットを飼育する借主さんの入居を阻止することにつながり、借主さんがこれに違反した場合には、契約の解除を求めることができます。

しかし、ペット飼育特約に違反したことのみを理由に、常に契約を解除できるかどうかについては慎重な検討が必要です。

この点において、ペットが禁止条項違反の事実だけをもって契約の解除を認める裁判例もありますが、ペット禁止特約違反の事実に他の要素(貸主によるペット飼育中止の要請、室内の汚れやペットの鳴き声で隣人に迷惑をかけたなどの事情)を考慮した上で、貸主さんによる賃貸借契約解除の要求を認める裁判例もあります。

 

賃貸借契約は、当事者間の信頼関係を基礎として契約が締結されるため、契約を解除するためには当事者間の信頼関係が破壊されたといえる事情が必要となります。

事案によっては、ペット禁止条項に違反した事実のみでは信頼関係が破壊されたと評価されない可能性がある点について注意をしなければなりません。

その際、ペット飼育の中止を求めたのにも関わらず借主さんがこれに応じなかったという事実は信頼関係の破壊を基礎づける事実となります。

そのため、借主さんがペット禁止条項に違反してペットを飼育している事実を把握した借主さんは、速やかに借主さんに対してペット飼育の中止を求めるようにしてください。

その事実が後々トラブルが発展した際、賃貸借契約の解除が認められることにつながります。

 

どういった方法・タイミングが好ましいかなど、判断に迷うような場合や事情に不安に思うことがありましたらぜひ一度当社へご相談ください。

的確にアドバイスをさせていただきます。