契約時の条項に違反した借主さんに対して、貸主さんからの損害賠償請求は認められるのか?
今回は、店舗用建物において起こったトラブルをご紹介します。
今回のトラブル・質問内容
不動産賃貸業を営むXさんは、家電製品などの販売店を営むYさんを含む複数の借主と協議をし、その意向を聞いたうえで店舗用建物を新築しました。
そして、さまざまな業種が入居して店舗の営業などを行うことで、相互に建物全体としてのお客様の入りを向上させることを前提として、Yさんとの間で賃貸契約期間を20年とする賃貸借契約を締結しました。
その際、Yさんが連続して3日間を超えて建物における営業を休業するときは、あらかじめXさんに対し書面で申し入れをし、Xさんの承諾を得なければならず、もしこれが守られなかったときには、Xさんは通知催告することなく契約を解除できる旨の条項や、Yさんは原則として賃貸借契約期間中は解約の申し入れができないが、Xさんの承諾を得て第三者に転貸することができ、転貸を承諾する場合としない場合を転借人候補者の業務内容などにより定める旨の条項を設けました。
ところが、Yさんは、Xさんの承諾を得ることなく、賃貸建物内で営んでいた家電製品等の販売店を突然閉店してしまいました。
そこでXさんは、Yさんが本件の条項に違反したことを理由に契約を解除し、債務不履行による損害賠償を請求しようと考えていますが、その要求は認められるのでしょうか。
結論
◇Yさんの本件条項違反を理由とする契約解除、ならびに、債務不履行に基づく損害賠償は、いずれも認められると考えられます
賃貸借契約では、原則として借主さんは、店舗における営業日や休業日をどのように設定するかを貸主さんの干渉を受けることなく自由に決めることが可能です。
ですが今回、こちらの案件においては、借主のYさんが連続3日を超えて営業を休業する場合は、貸主であるXさんの承諾を得なければならないとされており、Yさんの営業の事由が制限される条項が設けられています。
もしYさんがこの条項に違反して営業を休止した場合、Xさんは契約違反を理由に賃貸借契約を解除することができるのでしょうか。
それには、今回の条項がYさんの営業の事由を著しく侵害するとして、公序良俗に違反して無効(民法90条)とならないのかが問題となります。
そこで、今回の案件と似ているケースですが、
【種々の業種の賃借人が入って相互に建物全体としての客の入りを向上させることを前提として賃貸人と契約を締結し、これを担保するために本件条項が定められたと認定し、本件賃貸借契約は対等な企業間契約で将来の収支を計算した上で締結したものであり、賃借人も一定の方法で契約関係を離脱することができることを理由に、本件条項は公序良俗に違反しない】
と判示し、借主さんの本件条項違反を理由として契約が解除されたとし、借主さんに対する債務不履行に基づく損害賠償請求を認めました。(平成22年10月28日東京地裁判決)
上記の判例より、今回の事案においても、Xさんは、Yさんが本件条項に違反したことを理由に契約を解除し、債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができると言えます。
今回のようなトラブルを回避するためのアドバイス
ショッピングモールやデパートなど、一定の施設においては、入居したテナント全てが営業していることを期待してお客様が集まってくるという大きな特徴があります。
そこで、貸主さんとしては、本件条項を設けることで、施設全体としての統一的運営を確保し、そして集客力の維持・向上を図ることが考えられます。
もっとも、借主さんの営業の自由を侵害する側面のある本件条項は、無条件に有効とされるわけではありません。
今回の解説でご紹介したとおり、上記の判例では、
・貸主さんが借主さんの意向を聞いて協議を重ねた上で建物を建築したこと
・両者が対等な立場で賃貸借契約契約を締結したこと
・借主さんが契約関係を離脱することが可能だったこと
上記のことから、本件条項が公序良俗に反する内容の契約が無効であることを定めた民法90条に違反していないと判断されたものであります。
少なくとも、本件条項に合意することに客観的な合理性が認められる場合でなければ、本件条項は無効となる恐れがありますので、この点については十分注意する必要があります。
いくつかの店舗がテナントとして入るような施設を賃貸借契約する場合には、あらかじめ互いの了承・合意のもとでしっかりとした条項を定めることがとても大切です。
契約締結時のご相談もぜひ当社へお気軽にご相談ください。