契約終了時のトラブル ◇漏水事故の発生を理由に借主さんが賃料の不払いを正当化しています。契約解除は認められますか?

/ J-REC公認不動産コンサルタント、宅地建物取引士

いつ起きるかわからない、賃貸物件の漏水事故。

そのことを理由に借主さんが賃料の支払いを拒否し、不払いが続いた場合、貸主さんとしては契約解除を検討することがあるかと思います。

今回は、そのような場合に契約の解除が認められるのかどうか、細かな事情も交えてご紹介したいと思います。

 

今回のトラブル・質問内容

 

 

借主さんであるYさんは、貸主Xさんから建物を賃借し飲食店を経営しています。

こちらの建物において、2年ほどまえにトイレの天井部分からの漏水で店舗の客席床に水が溜まった事がありました。

また、10ヶ月前と6ヶ月前、そして2ヶ月前にもそれぞれ程度は軽いながらも漏水事故が発生しました。

貸主Xさんは、借主のYさんから漏水の連絡と苦情を受けた際にはすぐ応急措置を施し、その後本格的な漏水事故対策工事を実施するために準備を進めましたが借主であるYさん側の協力が得られなかったため、完全な漏水対策工事まで完了させられない状況でした。

そんな中、借主Yさんは1年ほど前までは遅れ事が多々ありながらも賃料を支払っていましたが、その後は支払いの督促をすると「支払いする」と述べるだけで、実際には賃料を支払わない状況が続いています。

そこで、貸主のXさんが借主のYさんに対して賃料の不払いにより賃貸借契約を解除して建物の明け渡しを求めたところ、借主Yさんは、『漏水事故が何度も起こり、建物を使用収益することができなかったのであるから、賃料の支払い義務などない』と主張し、争いに発展してしまいました。

貸主さんとしては契約解除を希望していますが、借主さん側も賃料不払いの正当化を主張。

このような状況で貸主さんの契約解除の要求は認められるのでしょうか。

 

 

結論

 

 

◇借主さんは建物を明け渡さなければならない

借主さんは、賃貸物件を使用収益することの対価として賃料を払っています。

そのため、貸主さんは、賃貸物件が適正に使用収益される状態を維持するために必要な修繕を行わなければなりません。(民法606条1項)

貸主さんが必要な修繕を怠った場合、借主さんは賃貸物件の使用が害された限度で賃料の支払いを拒絶することができます。

そのため、今回の案件においても、借主であるYさんが賃貸物件賃貸物件を全く使用収益することができなかったのであれば、借主Yさんは賃料全額の支払いを拒否することができるため、貸主Xさんによる契約の解除は認められない可能性が非常に高くなります。

この点において、今回のケースと同様の案件において、

【賃借人が、漏水事故後しばらくは遅れながらも賃料を支払っており、その後も賃貸人に対し賃料を支払う旨を約束していたことからして、漏水によって賃貸建物の全部または一部の使用収益が不能となっているとはいえない】

【賃貸人は、賃借人の漏水の苦情に対し、迅速かつ誠実に応急措置などの対応をしているのであるから、仮に賃貸建物の一部に一時的に使用収益不能の状態が生じていたとしても、それは賃借人の責めに帰すべき事情によるものというべきである】

(平成21年10月29日東京高裁判決)

として、借主さんの賃料全額の支払い義務を認めた上で、借主さんによる賃料不払いを理由とする契約解除を認めました。

このことから、今回の案件でも、漏水事故を理由とする借主Yさんの賃料不払いが正当化されることはないと言ってよいでしょう。

 

 

今回のようなトラブルを回避するためのアドバイス

 

 

貸主さんは、賃貸物件が適正に使用収益される状態を維持するため必要な修繕を行う義務を負っています。

貸主さんが修繕義務を怠っている場合には、借主さんから、賃貸物件の使用収益ができなくなった程度に応じて賃料の支払いを拒絶されることにつながってしまいます。

そのため、漏水などの修繕を必要とする事故が発生した場合、貸主さんとしては、迅速かつ誠実に応急措置を施し、必要であれば本格的な対策工事を実施するなど、修繕義務を履行することが必要となります。

賃貸借契約は、貸主さんと借主さんの信頼関係に基礎を置く継続的な契約です。

漏水事故などのトラブルに対誤った対応をしてしまうと、借主さんの不満が高まり、そのことから賃料不払いが始まったり、借主さんが退居してしまうことにつながりかねません。

借主さんと、関係のもと信頼関係を築き円満に契約を続けていくためにも、修繕義務を誠実に履行することを心掛けていただきたいと思います。

 

そして、漏水事故が発生した場合、被害の程度をめぐって深刻な争いに発展してしまうことが数多くあります。

漏水事故の被害現場を確認する際は、漏水の被害品が別の場所に移動されて保管されていないかなどの事情・状況にも注意を払いながら、借主さんから事情聴取を行い、被害品をできるかぎり早期に確認し把握するようにしていただきたいです。

漏水トラブルに限ったことではないのですが、初期対応時にしっかりとした被害確認を行うことで、付随して発生し得るトラブルリスクを事前に軽減することが可能となります。

今回の記事が今後何かあった際の参考となれば幸いです。

上記のようなトラブルが発生した場合のご相談も承りますので、ぜひお気軽にお問合せください。