契約終了時のトラブル ◇賃料減額交渉中に賃料未払が発生。そのことを理由に契約解除をすることは可能でしょうか?

/ J-REC公認不動産コンサルタント、宅地建物取引士

契約更新を何度か繰り返したのち、借主さんから賃料減額交渉をされるケースがあります。

双方がすんなりと合意できる内容で交渉が進めば特に問題にはなりませんが、貸主さん(大家さん)としては提示された金額には同意できないこともありますね。

そのことで借主さんが賃料の支払いを拒否し未払が発生した場合に貸主さんは契約解除の要求ができるのかどうか。

今回はその件についてご紹介したいと思います。

 

今回のトラブル・質問内容

 

 

貸主のXさんは、借主であるYさんとの間で、

用途:店舗用不動産

賃料:250,000円/月額

賃貸期間:3年間

更新料:500,000円

とする賃貸借契約を結び、契約後には、本件の賃貸借契約は2度の更新を行いました。

 

そして3度目の更新の際に、借主のYさんは経営難を理由に賃料の減額を要求。

契約更新後の賃料を180,000円に下げてほしいとの内容です。

上記金額には応じられないと貸主のXさんは要求を拒否したため、賃貸借契約は法定更新されました。

しかし借主のYさんは、更新後2ヶ月分の賃料の支払いをせず、更新時に支払うべき更新料も支払いませんでした。

なお、借主Yさんは適正賃料と判断する額の供託もしていません。

上記のことから、貸主のXさんは本件の賃貸借契約を解除するとともに、店舗用不動産の明け渡しを要求したところ、借主Yさんは本件賃貸借契約の解除は無効であると主張しお互いの主張が折り合わずにいます。

 

このような場合、貸主Xさんの契約解除の主張は有効と認められるのでしょうか?

 

 

結論

 

 

◇賃料減額交渉中といった状況の中では、賃貸借契約の解除は認められない可能性が高いです

 

賃貸借契約は、貸主さんと借主さんの信頼関係を基礎とした継続的な契約になりますので、賃貸借契約を解除するためには、当事者の一方に、その信頼関係を崩し、賃貸借関係の継続を”著しく困難とする”ような背信行為が認められることが必要となります。

よって、本事案では、貸主Xさんと借主のYさんが賃料減額交渉中に、借主のYさんが賃料を2ヶ月分支払わなかったことが賃貸借契約を解除できるだけの信頼関係の崩れにあたるのかどうかが問題となります。

そこで、今回と同様の案件で、

【賃貸人と賃借人との間で具体的な金額を提示して賃料の減額交渉が行われていたこと、そして賃料減額交渉がまとまらなかったため、合意更新の手続きができなかったに過ぎない事情の下では、賃借人が2ヶ月分の賃料を滞納したからといって、賃貸借契約を解除するだけの背信性は認められない】

と判断された事例があります。(平成23年8月36日東京地裁判決)

しかしながら、上記の案件においては、借主さんがその後の賃料も供託することなく支払わず、8カ月にもわたって賃料を滞納したため、長期間の賃料未払を理由とする賃貸借契約の解除を認めるという結果になっています。

よって、賃料減額交渉中に借主さんが賃料の滞納をしたとしても、滞納が2ヶ月分にとどまっている場合は、それだけを理由として賃貸借契約を解除することは困難だと言えるでしょう。

 

 

今回のようなトラブルを回避するためのアドバイス

 

 

賃料の支払については、賃貸借契約において借主さんが負っている最も重要な義務となります。

そのため、賃料の未払が2ヶ月から3ヶ月に達する場合、原則として貸主さんと借主さんの信頼関係は破壊されたと考えられ、貸主さんは賃貸借契約を解除することができます。

ですが、借主さんが賃料を支払わないことに、ある程度の合理性が認められるような場合には、たとえ借主さんが賃料の支払いを怠り賃料未払の状況にあったとしても、いまだ信頼関係を破壊したとはいえないとして、例外的に契約解除が認められない事もあり得ます。

 

よって、賃料未払を理由として賃貸借契約を解除する場合であっても、借主さんが賃料の支払いを怠るに至った経緯に一定の理由が存在する場合などには、現時点で賃貸借契約が解除できる見込みがあるのかどうかを慎重に検討することが必要になってきます。

なお、単純にお金がなく賃料を支払えないことは、借主さんが賃料を支払わない合理的な理由にはなりませんので、賃貸借契約の解除を申し出ることは問題ありません。

 

貸主さんが賃料減額交渉に応じないという事情は、借主さんの賃料未払を正当化する理由にはなりませんが、信頼関係の破壊を判断するにあたり、ある程度の意味をもつ事情となります。

ただ、借主さんが賃料減額の交渉に応じないことを理由に賃料の支払いを停止した場合には、ある程度長期間の賃料未払がない限り、信頼関係が破壊されたとは認められない可能性がありますので、その点を見極めることが大切です。