チェーン店舗展開の際によく用いられるのが、貸主さん側が、借主さんの希望する仕様・デザイン等の建物を建築し、その物件を貸主さんに対し賃貸する建貸契約(オーダーメイド賃貸)です。
建築時に貸主さん側の要望の反映が少ないと思われる建貸契約ですが、契約中に何らかのトラブルが発生した場合に、通常の賃貸契約同様に貸主さんが修繕義務を負うのかどうかについてご紹介します。
今回のトラブル・質問内容
貸主Xさんは、借主であるYさんの要望に沿って店舗用の建物を建設・建築し、その建物を貸主Yさんへ賃貸する”建貸契約”を締結し、該当の土地に建物を建設しました。
建物が出来上がり、借主Yさんはしばらく該当物件で営業を行っていました。
ところがその後、土地の地盤が軟弱であったため店舗として使用している建物に若干の歪みが発生しました。
そして貸主Xさんは借主Yさんより「まともな営業ができないので修繕をしてほしい。」との要請を受けました。
この要請に対して貸主Xさんは、”この建物は借主Yさん主導で建築されたものであり、自分は建築費等を負担したに過ぎないのであるから、修繕義務などは負わない”として要請を拒否し、互いに主張を譲らずにトラブルに発展してしまいました。
今回のように通常の賃貸契約とは違い“建貸契約”として賃貸契約を結んでいる場合、貸主さんの主張通り、修繕義務を免れることは可能なのでしょうか?
次の目次で事例も交えてお伝えしていきます。
結論
◇貸主Xさんは修繕を行わなければならない
今回の案件で、土地の所有者・物件の貸主である貸主Xさんは、自身の土地上に、自ら建築費などを負担し、借主Yさんの要望・計画に沿った建物を建築した上で、該当の建物を借主Yさんに賃貸しています。
上の目次でもご紹介しましたが、このような契約を【建貸契約】と呼びます。
建貸契約における建物は、一般的に借主側が主導となって建築されることが多く、貸主側は建設費などの費用のみを負担するのみで、建築工事の内容には全く関与していないことが多いです。
そのような場合に貸主さんは実質的な建築主が借主さんであることを理由に、修繕義務の履行を拒否することができるのかどうか、ですが…
同様のケースの判例では
【建物の建築が賃借人主導で行われ、賃貸人の関心の度合いが低かったとしても、本件建物の賃貸人が本件建物の修繕義務を負わないということにはならない】
として、貸主さんが修繕義務を負うとの判決が下りています。(平成19年7月24日福岡高裁判決)
上記より、今回の案件においても貸主Xさんは修繕義務を拒否することはできず、その責を負うことになりますので、借主Yさんの要請に応じて必要な修繕を行なわなければなりません。
今回のようなトラブルを回避するためのアドバイス
今回のトラブル内容は、なんとなく、修繕義務は拒否できるのでは?と思ってしまいがちですが、建貸契約であることを理由に、賃貸建物の修繕を拒むことはできません。
修繕を拒否し続けることにより、建物の適正な使用収益ができなくなってしまうと、修繕義務の不履行を理由に借主さんから賃貸借契約を解除される恐れがありますので注意が必要です。
なお、建貸契約における建物は、借主さん独自の要望に沿った仕様で建てられることがほとんどのため、仕様によって物件の使用用途が限られてしまうケースが多く、契約を途中で解除されてしまうと、次の入居者さんを募る際にスムーズに借り手が見つかるとは限らず、そうなった場合に長期空室となってしまう可能性があることも視野に入れなければなりません。
そのため、建貸契約においては、賃貸借契約が途中で解約された場合に発生が見込まれる損害を「違約金の支払いによって補填する」ことを考え、貸主さん側の利益を保護し、リスクを最低限に抑える対策が必要です。
こちらの点において、前の目次でご紹介した裁判の事例では、裁判所が、営業上の弊害が軽微であることを理由に借主が主張した修繕義務の不履行による契約の解除を認めず、契約書に記載された中途解約に基づく解約を認めたため、貸主さんから借主さんに対する中途解約条項に基づく違約金の請求が認められています。
もっとも、上記の案件では、中途解約条項の文言が
◇借主が契約期間内に解約する場合は、解約時の本件建物の償却残高を違約金として貸主に支払うものとする
といった内容で、“解約時の本件建物の償却残高”の算定方法が明確ではなかったため、違約金の具体的な金額がいくらになるのかが争点となってしまいました。
建貸契約を締結する際の注意点としては、契約期間内の中途解約の場合の違約金を契約解除条項に明記することはもちろん、違約金の金額に関して新たなトラブルが発生しないよう、経過年数に応じて、【〇年~〇年の間に解約された場合の違約金は〔・・・・・円〕】のように、具体的な金額が記載された表などを作成し、金額が明確に理解・同意されるための対策が有効となります。
金額算定には専門的な知識が必要になりますので、その際は専門家に相談をしながら検討することをおすすめします。
当社でもセカンドオピニオンを含め丁寧にアドバイスさせていただきますので、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
お待ちしております。