入居中のトラブル ◇漏水事故の発生から1年半以上経ってから借主から損害賠償の請求が。どこまで賠償の義務がある?

/ J-REC公認不動産コンサルタント、宅地建物取引士

賃貸物件では様々なトラブル・事故が起こりますが、発生後すぐ修繕や補償に対しての賠償が発生する事がほとんどです。

そんな中、事故発生から長い期間経ってから、その間に生じた期間に対する損害の賠償請求を起こされたら、大家さんとしては大変困ってしまうのではないでしょうか。

今回は、そういったトラブルの事例をご紹介します。

 

 

今回のトラブル・質問内容

 

 

貸主のXさんは、所有している店舗用の物件を、借主であるYさんに賃貸。

借主のYさんは、その物件をカラオケ店として営業し収益を得ていました。

そんな中、建物に発生した漏水事故の被害の影響で、Yさんのお店は営業ができなくなってしまいました。

そして借主Yさんは、漏水事故から1年7カ月経過した時に突然、貸主であるXさんに対し“営業損害等”について損害賠償請求を起こしました。

補足として、漏水事故の後、借主のYさんは保険会社からカラオケセットに関する保険金を受け取っています。

そのため、他の店舗で営業を再開することも可能だったにもかかわらず、営業を休止していた間の約1年半、全期間に対する損害を賠償するよう貸主Xさんに請求をしている、といった状況です。

また、この物件は築30年を超え、頻繁に漏水が発生していたため、根本的に解決をするためには大規模な修繕が必要な状況でもありました。

そこで、このような事情がある場合に、貸主のXさんは休業中全期間の営業損害を賠償する義務があるのかどうかについて、次の目次でお伝えしていきたいと思います。

 

 

結論

 

 

◇貸主Xさんは、店舗休業期間中の損害を全て賠償する必要はないと考えられます

今回の事例では、賃貸借契約中に漏水事故が起きた場合の営業損害(逸失利益)の範囲が争点となります。

漏水により借主さん側が被害を受けた場合、貸主さんは借主さんが主張する損害を制限なく賠償をしなければならないわけではありません。

債務不履行に基づく損害賠償の範囲は、原則として「通常生ずべき損害」と定められていますので(民法416条1項)、こちらの事例で漏水事故により借主のYさんが受けた営業損害も、その範囲の中で認められることになります。

今回の案件に似た事例で、「借主が損害を回避、または減少させる措置をとる事ができた時期以降に発生した損害のすべてが“通常生ずべき”損害にあたるということはできない」と判示した例があります。(平成21年1月19日 最高裁判所判決)

なぜかというと、借主さんが損害を回避、または減少させる措置を何も取ることもなく、店舗が使用できない状態であることに伴う営業損害を、発生するがままに放置していたようなケースでは、そこで生じた損害のすべてを貸主さんに負担させるのは不公平だから、です。

 

今回の事例では、該当の物件(店舗)は築年数も経ち老朽化しており、大規模な修繕が必要であったことから、そもそも賃貸借契約をそのままの状態で継続し契約を続けることは考え難い状況です。

また、漏水事故の発生から1年7カ月もの期間が経っており、もはやこちらの店舗での営業再開は一般的に考えても難しい状況と考えられます。

そのような状況、かつ、借主のYさんはカラオケセットの損害に対して保険金を受け取っているにもかかわらず他の場所で営業再開をする等、損害を回避/軽減させるための措置を全く取っていなかったのですから、“営業損害の全額を貸主さんの責任として請求するすることはできない”と考えられます。

 

 

補足説明・アドバイス

 

 

貸主さんが修繕義務を果たさなかったことによる損害賠償義務については免れないとしても、貸主さんは、借主さんが主張・要求するすべての損害について賠償をしなければならないわけではありません。

貸主さんが賠償をしなければいけない損害というのは、一般的に「修繕義務違反行為から発生する、相当な範囲」に限られています。

また、借主さんに対しては、損害の拡大を防止・減少するための行動をとること、対処をすること、が期待されていますので、“借主さん側が当然期待される行動をとらなかったことに起因して損害が広がってしまった場合には、貸主さんはその拡大した部分の損害について賠償義務を負わない”ということになります。

したがって、適正な損害賠償金額の確定と、借主さん側が主張する賠償請求に応じる必要があるかどうか判断をするためには、借主さんが損害の拡大を防止・減少させるための措置を取っているかどうかをしっかりと確認しすることが必要です。

それにより、不当な請求に応じる必要がなくなりますので、必ず確認するよう注意をしていただきたいポイントです。

もし判断に迷うような場合は、弁護士や不動産管理の専門家に相談するのが一番です。

当社でもセカンドオピニオンを含めアドバイスを行っておりますので、ぜひお気軽にご相談いただければと思います。