入居中のトラブル ◇隣家の犬の鳴き声を理由に賃料減額か損害賠償を求められました。応じる必要はあるのでしょうか。

/ J-REC公認不動産コンサルタント、宅地建物取引士

管理している物件そのものではなく、隣家や近隣の騒音等が原因となるトラブルも賃貸経営をしていく上で起こり得る問題のひとつです。

今回は、隣家の犬の鳴き声が原因となったトラブル事例についてご紹介します。

 

今回のトラブル・質問内容

 

 

 

貸主のXさんと借主のYさんはマンションの1室の賃貸借契約を結びました。

マンションの隣には戸建の住宅があり、その住宅では家主のAさんが長い間小型犬の繁殖を行っていました。

そのため、犬が一斉に鳴くこともあり、該当物件をはじめ、近所にもその音が響いているといった状況でした。

戸建住宅家主のAさんは、賃貸物件借主のYさんから騒音の苦情を受け、犬を飼育している部屋の窓を二重窓にするなどの防音対策工事を行い、ある程度の改善がみられました。

ですが、犬が一斉に鳴いた時は隣家とマンションの境界線上で60デシベルを超える騒音(日常生活をする上でうるさく感じるレベル)が確認されました。

ただ、一日中犬が鳴いている訳ではなく、犬が鳴く時間は限られており、この地域は商業地域のためもともとの生活騒音もある程度発生している地域でした。

こういった状況の中、借主のYさんは「騒音が受忍限度を超えていると主張し、貸主のXさんに対して“損害賠償”ないし“賃料の減額”を求めました。

これに対し貸主Xさんは「騒音は受忍限度の範囲内であり、借主の要求は認められない」として争っています。

 

今回の問題、借主の主張が認められるのか、それとも認められないのか、どちらでしょうか?

 

 

結論

 

 

◇借主の主張が認められない可能性が高い。(ただし、騒音の程度等の事情により結論が変わる可能性がある)

マンションの貸主は、賃貸借契約に基づき、借主に対し物件を使用収益させる義務があり、目的物(=物件)を通常の使用収益に適する状態に維持しなければなりません。

騒音についても同様に、周囲の環境や建物の構造などから一般的に期待される程度の環境を維持する必要があります。

しかしながら、騒音がない無音の環境を維持することも不可能ですから、社会通念に照らし、ある程度の音量は借主の受忍限度の範囲内だとされています。

 

では、その“受忍限度”の範囲内かどうかについてはどのように判断されるのかについては下記をご覧ください。

 

① 騒音がどの程度のものなのか

② 騒音によってどういう不利益が生じているのか

③ 騒音が発生し継続した経緯

④ どのような騒音防止措置等が施されたのか

 

案件ごとに個別の判断にはなりますが、一般的には上記の点から総合的に判断されます。

 

また、今回の案件と同様のケースとして、上記の項目について調査を行った上で

【犬の鳴き声の騒音は受忍限度を超えない】(平成23年5月19日 東京地方裁判所判決)

とした判例もあります。

 

 

今回のようなトラブルを回避するためのアドバイス

 

 

騒音の問題は、住環境下で起こる近隣環境紛争において最もトラブルとなる事が多い問題といわれています。

本来、騒音トラブルは、“騒音を発している者”と、“騒音の被害を主張する者”同士が当事者となることが多いのですが、今回の案件のように、賃貸物件においては貸主さんもトラブルの当事者として関わることになります。

貸主さんとしては、ご自身が騒音の原因となっている訳ではないため対応の必要はない、と思われるかもしれませんが、原則として、物件を通常の使用収益に適する状態に維持する義務を負っていますので、騒音が当事者の受忍限度を超えている場合、対応をしないことで「債務不履行」として責任を追及される可能性があります。

そのため、例えば今回の案件でいえば貸主のXさんは隣家のAさんに苦情を伝え、対応をお願いするなど、借主Yさんの意向を聞きながら対応を行う必要があります。

一定の対応をしても苦情が収まらない場合、どこまで貸主として対応をすべきか悩む部分だと思いますが、判断をするにはかなり難しい部分になってきますので、その場合は弁護士などの専門家に相談をすることをおすすめします。

 

なお、今回のケースとは異なりますが、物件の借主同士が騒音問題でトラブルになることもよくあります。

よくあるパターンとしては、同じマンションに賃貸借契約で入居している隣人同士がトラブルになるケースです。

この場合、貸主さんは問題のある借主さんとの賃貸借契約を解除/退居させる権利を持っていますので、騒音の程度が“受忍限度”の範囲を超えている場合には、騒音を抑制するための注意を促すだけではなく、退居措置をこうじるかどうかも見据えた対応が必要になります。

 

いずれにしても、このようなトラブルにおいて、一番肝心な部分は騒音のレベルです。

借主さんから騒音被害の相談を受けた場合は、その後に騒音問題で争うことになることを想定し、

・騒音計で計測を実施

・計測時間、計測状況の記録

をすることが大切です。

また、訴えを起こした借主さんの主張が全て正しいとは限らないという事も考慮し、計測等の対応を借主さんに任せるのではなく、貸主さん自ら計測を行い、問題となった場合に提出できるよう記録をしっかり残すことがポイントになります。

 

もしご自身では対応が難しい、または対策をしたがどこまで対応をすべきか、等のご不安・お悩みがありましたらぜひ一度ご相談ください。