入居中のトラブル ◇物件でコバエが多数発生し、借主から損害賠償の請求が。応じる必要はある?

/ J-REC公認不動産コンサルタント、宅地建物取引士

 

 

今回のトラブル・質問内容

 

 

貸主Xさんは、借主のYさんに対し、事務所として使うために、繁華街のビルの1階部分を賃貸しました。

ところが、この建物内にコバエが多く発生したため、借主Yさんは貸主Xさんに対して対応の申し入れをしました。

 

貸主Xさんは、汚水槽を薬剤で消毒するなど、コバエ駆除のために対応をしましたが、一時的に減少しても、すぐにコバエが多数発生してしまうという状況が続き、結局、問題の解決には至りませんでした。

 

業を煮やした借主Yさんは、独自にコバエの発生原因など調査を行いました。

その結果、建物の汚水槽の機能および構造が原因であることが判明しましたが、やはりコバエの減ずる解決までには至りませんでした。

 

そこで借主Yさんは、「コバエの発生で賃貸借目的に従った使用ができない!!」と主張しました。

貸主Xさんに対して契約解除通知を行うとともに、損害賠償請求をし、事務所の移転費用、コバエ発生原因の調査費用、コバエ発生対応に要した労務費増加分、慰謝料等の支払いを求めました。

これに対し、貸主Xさんは、契約の合意による終了は認めましたが、損害賠償請求には応じられないとしてトラブルとなり、争っています。

今回のトラブルでは、どちらの言い分が認められるのでしょうか…

 

 

結論

 

 

◇借主Yさんの損害賠償請求が認められる可能性が高いでしょう。

 

物件の貸主さんは、賃貸借契約に基づき、テナントに対し、物件を使用収益させる義務を負っています(民法601条)。

従って、貸主さんは、賃貸借の継続中、目的物を通常の使用収益に適するような状態に維持しなければなりません。

 

そこで、今回貸主Xさんは、通常の使用収益に適するような状態に維持する義務を尽くしたと言えるのでしょうか。

その義務を尽くしていない場合には、貸主Xさんは債務不履行に基づく損害賠償義務を負わなければならなくなります。

 

このような事案があります。

東京地裁平成24年6月26日判決は、本件と同様、ビルの地下にあるテナントを会社の事務所として賃貸したところ、コバエが多数発生したというケースにおいて、コバエ発生のため、従業員の皆さんが不快感を持つとともに、業務に集中できないなどの支障が生じたり、外部からいらっしゃったお客様も不快感を感じるなど、事務所としての利用が一定のレベルで妨げられていると認め、損害賠償請求を認めました。

 

よって、本事案でも、賃貸契約上の債務不履行があったと認められると考えられるでしょう。

 

では、具体的に貸主Xさんはどのくらいの損害賠償責任を負うのでしょうか?

上記でご紹介した判例では、

調査のための費用:157万5000円

コバエの発生の対応により従業員の労働時間が増加したことなどによる労務費用増加分:250万円

慰謝料:200万円

上記の合計、総額607万5000円の損害額と認められました。

 

 

今回のようなトラブルを回避するためのアドバイス

 

 

貸主さんは、物件を通常の使用収益に適するような状態に置かなければなりません。

貸主さんによっては、契約後について「ご自由にお使いください」というだけで足りるという認識の方もいらっしゃいますが、決してそうではありません。

物件に利用を妨げるほどの不具合が生じ、且つ、その原因が借主の仕様環境下に原因があるのではなく、物件の構造等や仕様に問題があるのであれば、貸主さんにはその問題に対応し、状況を改善する“義務”があります。

まずは、借主さんから不具合や不都合の申し入れがあった場合には、しっかりと誠意をもって対応するという心構えを持つ必要があります。

 

借主さんからの申し入れ内容が、そもそも物件の使用を妨げるほどの不具合と言えないならば、貸主さん側が物件を使用収益させる義務を怠ったということにはなりませんが、物件の使用を妨げるほどの不具合か否かの判断は容易ではなく、客観的な判断が大事になりますので、このような申し入れに対しては社会常識に従った対応を行うことを心がけるべきでしょう。

また、借主さんが主張する不具合・不都合の原因が明らかでない場合は、合理的な範囲で調査を実施することも必要です。

 

例えば、コバエが発生した原因が、借主さん側のゴミ処分上の問題(例:生ゴミのゴミ出しを怠っていた、等)にあるのならば、これは借主さん側の対応・態度により生じたものですから、貸主さん側が対応を行う必要はありません。

しかし、今回の事案のように、貸主さん(物件)側に原因があるのであれば、状況の改善・解消に向けた積極的な対応を行う必要があります。

いずれにしても、物件の賃貸借契約は、貸主さん・借主さん双方の信頼関係の上に成り立つ部分がとても大きいものです。

そのため、借主さんから何らかの申し入れがあった場合は、決して貸主さんの一方的な判断・主観で処理を進めず、借主さんとしっかりと協議をしながら対応を進めることが何より大切といえるでしょう。

 

もしこのようなトラブルがなかなか解決に至らない、もしくは、客観的判断を仰ぎたいといった場合には、ぜひお気軽にご相談ください。

お待ちしております。