物件の管理にかかる費用が増えたり、様々な要因で賃料値上げを検討することがあると思います。
ですが、中には値上げが認められるのか心配に思う大家さんも多いのではないでしょうか。
そこで今回は、「そろそろ現在の賃料を値上げしたいな。。。」と考えていらっしゃる大家さんにとって参考となる事例をご紹介したいと思います。
今回のトラブル・質問内容
3年前に、貸主のXさんは、借主Yさんに対し、駅近くの商業ビルの最上階を飲食店用テナントとして賃貸する契約を結びました。
当時、借主Yさんより「お店の経営が軌道に乗るまでの間は賃料を抑えてもらえないか?」との相談・申し出があり、交渉の結果【賃料:500,000円/月額】と設定されました。
上記賃料の金額は、実際は他のテナントの賃料相場と比べると低く設定されていましたが、当初借主Yさんは他のテナントの賃料より低いことを知らされていませんでした。
さらに、契約書にも賃料を「“いつから”“いくら”値上げする」等についての具体的な記載はありませんでした。
そして、賃貸契約開始から3年が経った頃、貸主Xさんは借主Yさんに対して賃料の見直し(値上げ)を申し入れましたが借主Yさんはこれを拒否。
そこで貸主Xさんは、該当物件の適正賃料は少なくとも【1,000,000円/月額】だと主張し、賃料増額の意志を借主Yさんに対し伝えました。
これに対して借主Yさんは、“賃貸借契約の締結後、不動産の価値が上昇したなど、経済的事情の変動もなく、賃料増額は受け入れられない”と主張しました。
今回の場合、貸主さん側が希望する賃料の増額は認められるのか、認められないのか、どちらでしょうか?
結論
◇賃料の増額は認められる可能性が高い。
ですが、増額後の賃料については裁判所が客観的資料から判断することになる。
賃料の増額請求は、借地借家法32条1項本文で規定されている権利になり、一般的な賃貸借契約書でも賃料増額請求ができる旨を明記している事が多いです。
では一体、賃料の増額はどのような場合に認められるのか?についてです。
①賃料が諸事情の変化により客観的に不相当になったこと
②賃料を増額しない旨の特約がないこと
賃料増額請求は、所行2つの条件を満たした場合に認められると言えます。
今回の件では、当初の契約で賃料が定められてから3年ほどしか経っておらず、その間に経済事情の変化等はないものと考えられますが、現在の賃料は、借主Yさんの経営が軌道に乗るまでの間は賃料設定を低額にするという理由があって決められたものですので、現時点の適正賃料より低いことが明らかにされれば賃料の増額が認められる可能性は高いです。
同様の経緯で相場より低額の賃料が設定されていた案件にて、貸主さん側の賃料増額請求が認められている判例もあります。(平成20年4月30日、大阪高等裁判所)
ただ、増額後の賃料が貸主側の請求通り(今回の場合1,000,000円/月額)になるのかと言うと、必ずしもそうではありません。
増額後の適正な賃料額については、裁判所が客観的資料に基づいて判断をすることになります。
実際には、希望の賃料額や当事者の意向にもよりますが、裁判所が不動産鑑定士を選任し、適正資料を鑑定させたうえ、不動産鑑定士の見解に沿った金額になることが多いといえます。
今回のようなトラブルを回避するためのアドバイス
通常、賃料の増額請求を行う場合の流れは次のようになります。
1. まずは、話合いでの解決を目指し、借主さんに対し、賃料増額請求を行う旨の内容証明郵便を送付します。
2. 当事者間での話し合いでは解決・合意に至らなかった場合は、裁判所の調停委員を交えた話し合いでの解決を目的とし、“調停”という手続きを行います。
※賃料の増額を求める裁判については、まず“話し合い”をすることが最も望ましいという考えから、増額請求の訴訟を起こす前に、調停を起こさなければならないと定められています。【調停前置主義】
3. 調停でも解決できなかった場合は、賃料の増額を求め、貸主側が訴訟を起こします。
訴訟では、増額後の賃料額や当事者の意向にもよりますが、前の目次でお伝えした“不動産鑑定士”の鑑定などをもとに、最終的には裁判所が適切な賃料額を定めます。
ただ、調停や裁判所へ訴訟を起こすことになると、そのための時間や弁護士費用、不動産鑑定士費用などが必要になってきます。
不動産鑑定士への鑑定依頼費用は、目安として
・小規模案件 十数万円~
と、決して安いわけではなく、さらに物件によっては数十万円掛かることもあります。
そのため、賃料の増額請求を行う際には、増額が認められるかどうかの見込みをしっかりと立て、調停~裁判に必要な諸経費を計算し、採算が合うかどうかを事前にしっかりと確認したうえで進めていくことがとても大切になってきますので、参考になさってください。