費用負担特約トラブル ◇「ハウスクリーニング」「入居前鍵交換」の費用負担特約に合意した入居者が、退去時に突然費用の返還を請求してきたら?

/ J-REC公認不動産コンサルタント、宅地建物取引士

入居契約時に発生する様々な費用にまつわるトラブルをご紹介していますが、今回は“入居者側負担とする特約”を結んだ「ハウスクリーニング費用」「入居前鍵交換費用」の返還をめぐって起こった事例をご紹介したいと思います。

 

今回のトラブル・質問内容

 

 

貸主Xさんは借主であるYさんと

契約期間:2年

賃料:56,000円/月額

上記の内容で賃貸借契約を結んだ際、

「契約終了時は、汚損の有無や程度を問わず、専門業者によるハウスクリーニング費用として25,000円を借主が負担する」

「入居前に行う物件玄関の鍵交換について、その費用12,600円を借主が入居時に負担する」

という特約について合意をしました。

そして、貸主であるXさんは上記鍵交換の費用として12,600円をYさんより受領しています。

※これらの特約内容については、契約書や、賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書にも明確に記載されています

 

その後、借主のYさんが退居することとなり、ハウスクリーニング費用を敷金から差し引いた上で、残りの敷金を借主Yさんに返還したところ、Yさんから

「ハウスクリーニング費用と、入居時の鍵交換費用支払を借主に負担させる特約は、消費者契約法10条により無効である」

としてそれらの費用の返還を請求されてしまいました。

契約時の特約として、ハウスクリーニング費用、及び、鍵の交換費用についてYさんが負担するということは明確に合意をしていましたが、貸主XさんはYさんへ費用の返還をする必要があるのでしょうか?

 

 

結論

 

 

◇貸主XさんはYさんに対し、「ハウスクリーニング費用」「鍵交換費用」いずれも返還する必要はありません

消費者契約法10条は、法律の規定に比べ、“消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する条項であり、消費者の利益を一方的に害するものを無効”とみなしています。

そのため、本件では、借主側が負担するとされているハウスクリーニング費用と鍵交換の費用が、普段すべき原状回復義務の範囲に含まれるのかが争点となります。

この点において、“どのような内容の原状回復義務を貸主と借主のどちらが普段するのか”については、国土交通省が定めているガイドライン(※原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」)において一定の指針が示されていますし、裁判となった場合の裁判実務上でもガイドラインの内容が重視されていますので、まずそちらの内容をご紹介いたします。

~原状回復をめぐるトラブルとガイドライン 内容~

ガイドラインでは、専門業者によるハウスクリーニング費用は借主側が通常の清掃を実施している限り、原則として貸主が負担すべきとされており、鍵の交換についても、鍵の紛失などがない限りは原則として貸主が負担すべきとされています。

しかしながら、ガイドラインが規定する内容以上の義務を借主に負担させることがまったく認められていないわけではありません。

ガイドラインにおいても、

1:特約の必要性があり、かつ客観的・合理的理由が存在すること

2:借主が特約によって通常の現状回復義務を超えた修繕などの義務を負うことについて認識していること

3:借主が特約による義務負担の意志表示をしていること

といった、上記3つの要件を満たす場合には、“借主に特別の負担を課すことも可能”とされています。

 

そして、本件と同様の案件において、

【ハウスクリーニング費用を借主に負担させる特約について、賃貸借契約書や、賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書において、借主側負担とする旨が記載されていること、この合意があることによって、借主がハウスクリーニングを免れることができるという面もあること、金額も賃料の半額以下であるうえ、祖の金額も本件賃室の間取等に対するクリーニング費用として相当な範囲にとどまっていることから、借主に一方的に不利益とまではいえず、消費者契約法10条に違反せず有効】

【賃室の鍵を入居時に交換することによって防犯効果が期待でき、借主の利益となること。また、鍵交換費用を借主側負担とする旨の合意が

賃貸借契約書や賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書において記載されていること、金額的に鍵を交換するための費用として相当な範囲のものであれば、借主側に一方的に不利益ということまではいえず、消費者契約法10条に違反せず有効である】

と判断された裁判例があります。(東京地方裁判所 平成21年9月18日判決)

よって、本案件においても、ハウスクリーニング費用負担特約も、鍵交換費用負担特約も共に有効と考えられ、借主Yさんに対し返還する必要はないと考えられます。

 

 

今回のようなトラブルを回避するためのアドバイス

 

 

目次2でご紹介した裁判の例においては、「ハウスクリーニング費用負担特約」「鍵交換費用負担特約」について、その両方が消費者契約法10条に違反せず有効であると判断されていますが、“有効”と判断するにあたっては、

・両方の特約がそれぞれ明確に合意されているか

・金額が相当であるか

といった点がとても重要になってきます。

そのため、契約時にこれらの特約を締結する際には、特約内容について借主さんへしっかりと説明し納得をしていただいたうえ、特約の内容について「契約書」をはじめ、「重要事項説明書」などに明確に記載し、合意を得ることが大事です。

金額については、ハウスクリーニング費用や鍵の交換費用として一般的に妥当であるといえる金額の範囲内で設定し双方が合意する必要があります。

ハウスクリーニング費用についてはおおよそ賃料/月額の半分以下を目安の設定であれば、合理性があると判断されるようですので、金額設定の際には参考になさってください。