戸建の住宅とは違い、複数世帯が入居するマンション等では必ず「管理規約」が定められています。
この場合は、規約に則って使用方法を遵守した契約を進めなければならない条件など、契約締結時に所有者(大家さん)が守るべきことが多くあります。
規約に違反した結果、トラブルに発展してしまうと、「知らなかった」では済まされない可能性もでてきますので、マンションを所有する大家さんは「管理規約」をよく理解し賃貸経営にあたることが大切です。
そこで今回は、居室の使用方法に関する具体的なケースをご紹介したいと思います。
今回のトラブル・質問内容
Question
大家のAさんが区分所有している物件(マンションの1室)を賃貸に出したいと希望し入居募集をしたところ、該当物件を司法書士事務所として使用したいと申込がありました。
ですが、所有しているマンションの管理規約に『居室を住居専用とする』という規定があり、こういった場合に入居申込の希望通り司法書士開設を前提に契約締結をしても問題がないのかどうか。
といった内容が今回の気になる・質問となる部分です。
所有物件にせっかく入居申込が来ているのですから、ぜひ契約を進めたくなるのが大家さんの心情ですよね。
ここを法律的な解釈で少し掘り下げて、次の目次で回答していきます。
結論
Answer 【入居申込を拒否すべき】
区分所有建物では、“区分所有者(貸主)および区分所有者(貸主)からの借主は、「建物の管理」または「使用」に関して、『区分所有者の共同の利益に反する行為』をしてはならない”と定められています。
〔建物の区分所有に関する法律6条1項・3項〕
これに違反した場合は、その行為の停止・禁止が命じられることになります。
〔同法57条・58条〕
そのため、今回の件において、入居申込者が賃貸物件を司法書士事務所として利用することは『区分所有の共同の利益に反する行為』に当たる場合は“貸主は入居申込を拒否すべきである”といえます。
その理由としては、入居申込者と賃貸借契約を交わし司法書士事務所として営業を開始した後、物件の管理規約によって借主さんが司法書士事務所として居室を使用することが禁止された場合、貸主さんは賃貸借契約上の「貸す債務」を履行することができなくなり、借主さんと間で“債務不履行に基づく損害賠償請求義務”を負う事になりかねないためです。
管理規約上に本件と同様の住居専用規定が設けられているマンションにおいて、区分所有者が専有部分を税理士事務所として使用していた件では、原審の判決を取消した上で、
専有部分を税理士事務所として使用することは『区分所有者の共同の利益に反している』と認め、使用停止を命じました。
こちらの判例から見ると、本件でも入居希望者が居室内で司法書士の業務を行うことは『区分所有者の共同の利益に反する行為』に当たるとみなされ、使用の停止・禁止が命じられる可能性が非常に高いといえます。
以上の内容から、本件においては借主さんとの間でのトラブルや損害賠償義務が発生するリスクを未然に防ぐ必要があり、司法書士事務所として使用することが分かっている段階で契約締結することは避けるべきと考えられます。
今回のようなトラブルを回避するためのアドバイス
目次2でご紹介した判例があるように、『区分所有者の共同の利益に反する』かどうかの判断は、マンションの管理規約の規定が大変重要です。
マンション管理規約の内容、また、入居申込者の使用目的や使用方法をしっかりと確認をせず専有部分の賃貸契約を締結してしまうと、借主さんとの間に今回のようなトラブルが発生してしまいます。
マンションの専有部分を賃貸する場合は、マンション管理規約の内容を必ず確認・把握することと、入居後の使用目的・使用方法をよく確認するように注意してください。
~類似判例~
裁判の判例で、専有部分の使用が『区分所有者の共同利益に反する』と認められた件をご紹介します
●店舗部分と住居部分に分かれているマンションの「店舗部分の管理規約・使用細則」に“他の居住者の迷惑となる騒音・振動を発生させる行為をしない”と規定されている物件/店舗部分において、午後11時以降の飲食店(居酒屋)の営業をしていたケース
〔平成13年6月19日 神戸地裁尼崎支部判決〕
●マンション管理規約に「住居専用」とする内容が規定されている物件を託児所として使用していたケース
〔平成18年3月30日 東京地裁判決〕
などがあります。
こちらで紹介した案件とは異なる部分もありますが、『区分所有者の共同の利益に反する』というリスクがあることにご理解をいただいたり、実際にこういった希望があった場合に物件の入居申込を受け入れるかどうか判断する際の参考になるのではないでしょうか。
もし判断に迷うようなケースがありましたら当社へお気軽にご相談ください。