以前のコラム入居者の多様化 ◇外国人の入居管理 その1◇でも書いておりますが、労働者不足が問題となりつつある現在の日本では、在留外国人の数が年々増加しています。
日本で一定期間仕事や生活をする上で、「住居」を確保することはとても重要です。
それに伴い、今後外国籍の方との賃貸入居契約に関するトラブルが増えていくことも予想されます。
今回は、外国籍を理由に賃貸入居契約の締結を拒否したことによって起こったトラブルの事例をご紹介したいと思います。
今回のトラブル内容
貸主X(大家)さんは、自身が所有している居住用賃貸マンションの客付けを不動産仲介業者であるA社へ依頼をしています。
入居物件に空きが出ているため、X社は入居者募集を開始。
そこに、物件への入居を希望するYさんが現れ、X社を通じて賃貸借契約書に署名・捺印をし、該当物件の入居に必要な申込金、敷金、前払い金の支払いも済ませました。
ところが、契約直前に大家さんはYさんが外国籍であることを知り、それを理由として賃貸借契約書への署名・捺印を拒否しました。
確かに、外国籍の方との間には、言葉や生活習慣の違いなどの問題が生じることもあり、賃貸経営上のリスクを抑えたいと考えると、あまり積極的に受け入れられないといった考えがあるのも事実です。
そこで今回は、
こうなってしまった場合、仲介業者であるA社はどういった対応をすべきなのか。
また、仲介業者を通さずに大家さん自身が賃貸経営をしている場合、もし外国籍の方の入居希望を拒否したいと思った時にそれが出来るのかどうか。
といった点について、今後の賃貸経営の参考にしていただければと思います。
結論
外国籍であることのみを理由に契約締結を拒否した場合、不法行為に基づく損害賠償義務を負うリスクがあります
外国籍であること(国籍だけ)を理由とする契約締結拒否には合理的理由があるとはいえないと判断されます。
そのため、貸主さん側が「入居者さんが外国籍であること」のみを理由に入居を拒否すると、入居申込者に対して精神的な苦痛を与える行為として、不法行為に基づく損害賠償義務を負わなければならなくなります。
そこで、外国籍であることのみを理由として物件の賃貸借契約を拒否した場合、一体どのくらいの損害賠償を負うのかについて、同じような事案において下された判決を参考にご紹介します。
◆平成19年10月2日 京都地裁判決◆
「賃貸マンションの経営者(貸主さん)が入居申込者の国籍を理由に賃貸契約の締結を拒否することは許されない」
としたうえで、入居申込者が賃貸借契約書に署名・捺印し、該当物件の申込金、敷金、前払い金の支払いまで済ませていた状況であることから、精神的苦痛に対する慰謝料として【100万円】の損害を認めました。
契約をするか/しないかは契約に関わる当事者間の自由であり、特別の契約の規定がない限り、契約締結を強制することはできませんが、今回のように“外国籍であること”だけを理由とした契約締結拒否は不当行為に該当します。
仲介業者としては、貸主さんに対し、契約締結拒否により不法行為に基づく損害賠償義務を負う可能性があることを十分に説明し、契約締結拒否を考え直すよう促すといった行為が必要となります。
貸主さんご自身においては、“外国籍であること”以外に契約締結拒否に値するような特別な事情がない限りは、入居を前向きに検討する必要がある、と言えます。
ただ、「リスク回避」も、賃貸経営上はおろそかにしてはならない部分であるのも事実です。
そこで、大家さんに今回のようなトラブルを避けていただくためのアドバイスを次の目次でお伝えしていきます。
今回のようなトラブルを回避するためのアドバイス
前の目次でお伝えしたように、外国籍のみを理由とする契約締結拒否は不当な差別にあたることから、不法行為と判断され損害賠償義務を負うことになりかねません。
上記の裁判例以外にも、仲介業者に対して貸主さんへ契約締結拒否の撤回を求めて働きかける義務があると認めた判例もあります。※平成18年10月5日 大阪高裁
このような事態を避けるべく契約締結の再考をするにあたっては、どのような理由・懸念を持ち、契約を拒否しているのかを明確にすることがまず大切です。
【言語の問題】
日本語の理解が難しい、といったケースであれば、保証人として日本語が理解できる人を付けてもらうようお願いをする
【賃料支払いの懸念】
民間の家賃債務保証サービスの利用可否を確認し検討する
【生活習慣の問題】
入居時にルールを明記した書面を用意し、しっかりと理解していることを確認のうえ署名・捺印をもらう
【外国籍の知人を一緒に住まわせてしまうかもしれないといった懸念】
そのような行為があった場合は、即解約(退居)となる旨を契約書面の条件として明記する
など、できうる限りの対策を事前にとり、しっかりと説明をすることで、安心して契約を交わすことができるようになります。
契約書とは別に、入居に関するパンフレットや冊子を準備し配布することも良いアイディアだと思います。
外国籍はちょっと…と思っている大家さんは意外と多いようですが、外国人在留者は今後ますます増えていくことが予想され、外国人入居に対する知識やノウハウがあるとないとでは、賃貸経営上だいぶ大きな差につながっていきます。
今後、外国人入居も考えていこう、と思われた大家さんはぜひ一度間口を広げて実際に経験をしていただきたいです。
もし準備や対策など、不安な点があればアドバイスをさせていただきますので、ぜひ一度ご相談ください。
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