今回は、定期建物賃貸借契約時に、貸主側が「賃貸借契約書」とは別に、本契約には契約の更新がない旨等を明記した別個の独立した書面を交付しなかったがために借主側が明け渡しを拒否するというトラブルに発展した事例をご紹介したいと思います。
今回のトラブル内容
事業用のマンションの貸主である大家のAさんは、5年前、入居者のCさんとの間で入居期間を5年間とする定期建物賃貸借契約を結び、『定期借家契約』との標題が付された契約書を作成しました。
また、大家のAさんが入居者Cさんに交付した上記の契約書には、
◆本契約は、前項に規定する期間の満了により終了し、更新がない。
と本件においての特約条項(以下「特約」)が設けられていました。
契約以前にAさんがCさんに交付した賃貸借契約書の原案にも本件の特約と同様の文言が記載されており、Cさんは今回の特約について認識していました。
ところが、いざ5年が経過し大家であるAさんが契約時の契約内容を元に部屋の明け渡しを要求したところCさんはこれを拒否し、入居継続の意思を示しました。
Aさんは、
『賃貸借契約書とは別の書面では特約の内容を説明していないが、本件の経緯からCさんは5年間の定期借家契約であることは理解していたはず。よって、本賃貸借契約は定期借家契約であることは明らかだ』
と反論し、入居物件の明け渡しを要求。
一方のCさんは、
『Aさんは、本件の賃貸借契約書とは別に、独立した書面を交付して本件の特約に関する説明をしていない。そのことから、本件賃貸借契約は普通借家契約である。よって、契約期間満了となっても契約は終了しない。』
と主張し、改めて明け渡しを拒否しました。
結論
本件特約は無効。よって、Aさんによる明け渡し要求は認められず。
2000年の3月に、借地・借家法が改正され、“定期借家制度”が創られました。
「更新がない」という不利な内容について借主側の理解を確実に得るために、建物の貸主(今回=大家さん)は定期借家契約の際には、あらかじめ契約の更新がなく、契約期間の満了によって該当物件の賃貸借契約は終了することについて書面を交付したうえ、説明をしなければならないとされました。
定期借家契約は、期間が満了したときに契約が更新されずに必ず終了する点で“普通借家制度”とは大きな違いが発生します。
こちらの件においては、たとえ借主のCさんが賃貸借契約書の内容、またはその他の事情により契約更新がされないことを理解していたとしても、定期借家契約を有効なものとするためには大家さん側が、入居者さんが十分理解するように、契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、あらかじめ、その旨を記載した書面を交付して説明する必要があったのです。
また、交付/説明に関しては、契約の前に貸主さん側から入居予定者に対して行われるべきもので、仮にもし契約前~契約時に貸主さん側からの交付/説明がないときは、定期借家契約が無効とされ、貸主さん側からの契約解除には正当事由が必要な『普通賃貸借契約』となり、借主さんが希望した場合は期間満了時の更新が可能となります。
今回のようなトラブルを回避するためのアドバイス
今回のトラブルのように、たとえ貸主さん側が入居者さんに対して定期借家契約であることについて説明を行っていたとしても、“賃貸借契約書”とは別個独立した書面を交付し、更に契約前~契約時に説明をしない限り、定期借家契約が有効であると認められなかったり、こういった関連のトラブルは意外と多いものです。
『定期借家契約』の契約締結の際は、必ず定期借家契約書とは別に書面を作成し、交付/説明を行ってください。
また、書面を交付し説明をしたことを証明し残す必要もありますので、書面の最後に
〔上記内容について、書面の交付/説明を受け内容を理解し承知しました〕
といった文言を付け加え、借主さんの署名・捺印をいただき双方で保管することをわすれないようにしてください。
大家さんからしてみれば、「ここに書いてありますよ」といった内容であっても、法的には今回のように別個書面の交付や説明義務が発生する要件が多々あります。
借主さんの不利益につながりかねない特約については、契約時の説明不足や書面交付不足があると貸主さん側の責任が問われてしまいます。
物件の賃貸借契約時には、念には念を入れて準備を進め、契約締結を進めてください。
契約時の不安を抱えていらっしゃる大家さん、、リスクを減らしたいと思っている大家さんがいらっしゃいましたら、ぜひ一度当社へご相談ください。
大家さんの大事な物件と財産を守れるよう、様々な角度からアドバイスをさせていただきます!