入居者様にもしもの事が起こった場合の対処について

/ J-REC公認不動産コンサルタント、宅地建物取引士

事件がおきてしまった場合はどう対処する? ~告知の判断・期間~

 

なんだか物騒なタイトルの記事になってしまいましたが、賃貸経営をしている大家さんにとって入居者様のもしもの事態、事件に巻き込まれたりした時のためにどのような問題が発生するのか、そして必要な対処法について知っておいていただくことが大切だと思っています。

そのため、今回こちらでは「事件後の対応」と、その後の「次の入居者様へ向けての“告知”」についてご紹介しますので、少しでも参考になれば幸いです。

 

~事件が起こった際は~

自殺や他殺、そして最近メディアで取り上げられることもある孤独死の場合も、入居者様が亡くなってからしばらく経過して発見されたケースはまず警察に通報し、警察の指示に従うようにするのが良いでしょう。

そして物件の管理を依頼している管理会社へも連絡を取りましょう。

管理会社はそのような事態に対処する知識がありますので、的確にアドバイスしサポートをしてくれるはずです。

 

~次の入居募集時の告知について~

上記のような事故が起こった場合、部屋の消毒や遺品・残留物の処理、原状回復工事などが済んで、次の入居者募集をする際には、募集を依頼する宅建業者に事実を伝えることと、入居希望者に「重要事項」として事故等があった事実を“告知”し、入居するかどうかの判断をしてもらう必要があります。

「重要事項」として告知が必要な期間については、特に法律で決まりがないため、あくまで目安となりますが「約5~6年」もしくは「入居者が2~3回変わるまで」とされることが過去の判例から推測できます。

事故の事実を告知した結果、敬遠されてしまう事もやはりありますが、「それでも良い」と判断する方や、「その分家賃を低くしてほしい」など交渉次第で入居となることもあります。

ただ、告知義務期間を短縮しようと、知人に短期間の入居を依頼し入居者の入れ替わりの事実を意図的に作るなど、こういった行為は絶対に避けるべきです。

 

 

告知義務違反になる可能性も ~具体的な裁判例

 

上記でも述べたように、告知する期間については法令ではないため、7年近く経過していても「知っていたら入居していなかった」と主張されて慰謝料を求められるケースや、損害賠償の請求に発展し告知義務違反として成立するケースもあります。

告知義務違反を問われた際に入居者様との話し合いが進展しない場合は、民事調停・訴訟などの法的な手続きでの解決が必要となってきます。

その際に参考となる、過去の具体的な裁判例を一部ご紹介します。

※売買契約の判例も含まれていますが、賃貸契約にも置きかえる事ができますので参考になさってください

 

◇1989.9月(横浜地裁)

マンションの売買契約後、売り主の家族が6年3ヶ月前にベランダで自殺をしていたことが判明。

売り主側が告知義務違反を問われ、契約解除+違約金(売買代金の20%)の支払いが認められる。

 

◇1995.5月(東京地裁)

戸建の売買契約で、以前の所有者が物置きで6年11カ月前に自殺していたことが判明。

売り主側が告知義務違反を問われ、契約解除により支払代金の返却が認められる。

 

上記のように、7年近く経過しても売り主(賃貸であれば貸主)側の告知義務違反となるケースもあり、新たな入居者への告知についてはいつまで告知をすべきか、注意をする必要があります。

そのため告知については宅建業者とよく相談のうえ、入居希望者に対しどのように対応していくかをあらかじめしっかりと話し合い、告知義務違反を問われないよう事前に対策をとっていきましょう。

 

自殺、他殺が起こった際の損害賠償

 

万が一、入居者様が物件内で自殺をした場合、大家さん側が遺族や連帯保証人に対して損害賠償を請求することができます。

具体的な損害賠償の請求内容としては

・消毒/クリーニング/原状回復等にかかる費用

・事故がなければ得る事のできたであろう賃料の収入

・事故が起こったことによる家賃減額分の減益額

などです。

入居者が生命保険に加入しており保険金が下りる場合には、そこからある程度補償してもらうよう遺族と交渉することが望ましいですが、事故による空室化が長引いてしまうことも考えられます。

数か月~数年に渡る空室分が全ては補償されない可能性と、遺族が入居者様に対する相続を放棄した場合は損害賠償の請求ができなくなるといったリスクもあります。

また、自殺ではなく仮に殺人事件の被害者となってしまった場合に、「入居者様に室内原状回復義務が発生しない」とされた判決があります。(2001.1月東京高裁判決より)

上記判決は加害者側に責任があるということを意味しており、犯人が逮捕されない限り犯人への損害賠償請求が出来ず、逮捕されたとしてもしっかりと支払いがされる確約もありません。

このことから、入居者が自殺した場合に発生した損害や事故等で発生した損害に対しては十分な補償はほぼないと考え、火災等の発生リスク同様に、家賃保証などの保険の加入をお勧めします。

 

 

こういった事態が起こらないことが一番ですが、残念ながら起きないとは言い切れないものです。

事故や事件を未然に防ぐためには入居者様とのコミュニケーション強化も大切になってきますので、管理会社と協力しながら賃貸経営をしていっていただければと思います。