入居者の多様化 ◇高齢者 その1◇

/ J-REC公認不動産コンサルタント、宅地建物取引士

高齢者の賃貸入居のニーズ

 

 

日本では古くから「持ち家主義」が根付いていますが、その感覚もだんだんと変わってきているのが実情です。

内閣府の「住生活に関する世論調査」からは住宅を“所有”したいという人の割合が年々減少してきていることが読み取れ、更に“持ち家”ではなく“高齢者向け住宅”や“介護施設”といった住まいを理想とする方が2割以上という結果もあります。

高齢者だけの単身/夫婦の世帯は2020年に1245万世帯と、高齢者の約半数にもなると予想されており、高齢者の方全てが持ち家から離れることは考えられませんが、確実に高齢者世帯は増えていきます。

上記のような高齢者向けの専門施設への入居を望む以外にも、

・子供も独立し、単身やご夫婦だけでは広すぎる自宅から生活のしやすいコンパクトな賃貸住宅へ引っ越し

・老後の生活を考え、子供の住まい近くの賃貸住居への引っ越し

といった転居を望むケースが増加することは間違いありません。

 

このような背景から、今後高まっていく高齢者の方の賃貸入居のニーズに関連して“高齢者の入居に対する「リスク」と「対処」についての知識”を次の目次からご紹介していきたいと思います。

 

 

 

高齢者入居の際はここを確認しましょう!

 

 

高齢者と一言で言っても、単純に年齢だけで判断できるものではないため、入居判断をする際には下記5つのポイントを確認して総合的に判断していただきたいと思います。

 

その1:自立しているか?介護が必要か?

介護の必要のある「要介護」の方は、一般的な賃貸住宅ではなく高齢者用住宅・介護施設の受け持ちとなります。

「要支援」の方は訪問サービス等の利用が可能か、可能な場合はそのサービスを受けることで日常生活に問題がないかどうかや、家族は何かあった際にスムーズに来れる距離に住んでいるかどうか、などによって検討を。

 

その2:仕事

定期的な仕事ができる状態であれば、健康上のリスクも低くほぼ自立していると判断して良いと思います。

何かあった際に連絡を取る手段として勤務先があるかどうかも大切。

一方、働いていなくても年金や資産の確認をとることで家賃の支払い能力の確認ができます。

 

その3:家族

近距離に家族がいて本人との交流があれば、孤独死や家賃滞納、不良入居者となった場合に家族の協力を得られるためリスクが抑えられます。

ただ、家族と近距離にいて同居しない理由については念のため確認を。

 

その4:友人

親しい友人が近く人いる場合、孤独死等の異変の早期発見につながることがありますので確認しておきましょう。

 

その5:住み替えの理由

懸念されるような理由での住み替えではないか、念のため理由の確認を。

 

 

具体的な判断の事例

 

例1:健康、仕事をしていて家族も近距離にいる。住み替え理由は勤務地変更の都合。

⇒ 通常の入居審査をして問題がなければ、念のため家族の連絡先を確認し賃貸借契約を。

家族の連絡先は更新時も忘れずに再確認。

 

例2:高齢になり、健康上の不安から息子の家の近くに住むための住み替え。仕事はしていない。

⇒ 契約者を息子さん/入居者をご本人 とし、日常的に身内の方のサポートもあればさほど心配ありませんが、なかなかサポートが難しいといった場合には見守りサービスなどのご提案を。

 

例3:住んでいた賃貸アパートの取り壊しで住み替える。家族は近距離にいるが、要介護(介護サービス利用)。仕事はしていない。

⇒ こちらのケースでは、介護サービス事業者と連携し入居者さまの状況を確認しやすい環境を整えましょう。

基本的には 契約者を子ども/入居者をご本人 とし、ご家族にも万が一の事態についてしっかりと説明し責任を明確に。

 

※個々のケースにより判断すべき内容は違ってきますので、お気軽にご相談ください

 

 

 

高齢者入居のリスクと対応について

 

 

高齢者入居のリスクは大きく分けて3つあります。

1)孤独死

2)家賃滞納

3)不良入居者化

 

そして、上記リスクに対応するリスクマネジメントの手法も3つ。

1)リスクの軽減…損害が発生しても影響が小さくなるように対処すること

2)回避…被害が起きないよう、事前に対処すること

3)転嫁…損害を他社に肩代わりしてもらう

孤独死

死亡からしばらく経って発見されたような孤独死が起きた物件は事故物件となり入居募集時に影響があります。

また、匂いなどの影響で通常の原状回復工事では解消できないケースもあり、その場合の特殊清掃には費用が高額に。

定期訪問をする、見守りサービスを利用、などで早期発見に努め、身内がいない場合の葬儀費用や家財処分費用を敷金として事前に預かりましょう。

身内を連帯保証人とし、連絡先を把握し、普段から報告・連絡を密にとる事で関係を築きましょう。

大家さんを受取人とする孤独死に対応した保険もあり、そちらへの加入もお勧めです。

家賃滞納

収入や預貯金があるのか口頭だけではなく「給与明細」「年金振込通知書」もしくは生活保護の場合「保護決定通知書」など文書で確認を。

単なる家賃の払い忘れから、長期化することもあります。

敷金を多めに預かっておく、口座振替にするなどは基本となり、預貯金や資産のある方であれば1年分まとめて前払いとするのも1つの方法ですが、一番安心なのはやはり保証会社にお願いすることです。

入居者さまにとってもリスクの少ない方法が選べると良いですね。

 

不良入居者化

ゴミを捨てられずに溜め込んでしまったり、耳が聞こえづらいなどからテレビの音量を上げることで起こる近隣との騒音問題であったり、火の不始末によるボヤ騒ぎなどのリスクが挙げられます。

日頃から入居者さまと交流し関係を築くことで、トラブルが大きくなる前に生活状況を把握することにつながります。

火災リスクに対してはガスコンロではなくIHクッキングヒーターにしたりエアコン以外の暖房器具は不可とするなどの条件を提示することもある程度必要です。

 

年々ニーズの高まる高齢者入居の間口を広げるため、入居時基準を作成したり、入居時の条件提示をすることで事前の対策を取り備えていきましょう。