定期建物賃貸借契約の期間満了前の通知を行わず、期間満了後に通知を行った場合。
そのような場合に、貸主さんは借主さんへ物件の明け渡しを要求することはできるのでしょうか?
今回のトラブル・質問内容
前建物の所有者Aさんは、借主Yさんとの間で、該当の建物について定期建物賃貸借契約(期間3年)を締結しました。
その後ですが、契約期間満了の1ヶ月前に所有者のAさんはXさんに建物を譲渡し、Xさんが本件の定期建物賃貸借契約の貸主となりました。
ところが新貸主Xさんは、定期建物賃貸借の終了通知を借主のYさんに送付することなく、本件の定期建物賃貸借契約の期間が満了してしまいました。
貸主Xさんは、期間満了から3か月後に借主のYさんに対して定期建物賃貸借契約の終了通知を送付し、通知後6カ月を明渡期限として建物の明け渡しを求めましたが、借主Yさんは、終了通知のないまま賃貸借契約期間が終了したため、“普通建物賃貸借契約と同様の法律関係になった”として、建物の明け渡しを拒否しています。
このような状況において、貸主さん側の「定期建物賃貸借契約を終了させ、建物の明け渡しを求める」といった要求は認められるのでしょうか?
結論
◇貸主のXさんは、建物を明け渡してもらうことができるでしょう
定期建物賃貸借契約を期間満了により終了させるためには、法律上、契約期間満了の1年前から6か月前までの間に、借主に対して該当の契約が期間満了によって終了することを通知することが必要となります。(借地借家法38条4項)
貸主が契約期間満了前の通知を怠った場合、契約期間満了時に借主に建物の明け渡しを求めることはできません。
では、貸主は定期賃貸借契約を終了させるために何をすれば良いのか?について、事例を交えてご紹介したいと思います。
今回と同様のケースにおいて、
【定期建物賃貸借契約は、貸主も借主も賃貸借契約に更新がないことを十分承知のうえ締結したものであるから、契約期間終了後までに貸主から終了通知がないからといって、貸主も借主も、その後は通常の普通建物賃貸借契約になるという事態は想定していないこと、及び、定期建物賃貸借契約は法律上期間満了によって確定的に終了するものであり、借主は建物に居住する権原を失うが、終了通知がなされて6か月経過するまでは建物を明け渡さなくてもよいと考えるのが自然であることを述べた上で、契約期間満了後に終了通知がなされた場合でも、6か月の経過をもって賃貸借契約は終了する】(平成21年3月19日東京地裁判決)
と判断されています。
このことより、今回の案件においても、契約期間満了後に貸主Xさんが借主Yさんに対し終了通知を送付すれば、通知後6か月の経過をもって、借主Yさんは建物を明け渡さなければならなくなると考えることができます。
今回のようなトラブルを回避するためのアドバイス
上の目次でご紹介した判例によると、定期建物賃貸借契約は期間満了によって確定的に終了することになりますので、期間満了後に貸主が借主に終了通知を送付すれば、通知後6か月の経過をもって、明け渡しの要求を行うことができます。
ただし、同様のトラブルに関する最高裁の判例が存在するわけではありませんので、定期建物賃貸借契約において期間満了前の終了通知を怠った場合は、期間満了後は期間の定めのない普通建物賃貸借契約となると判断されるリスクは少なからず存在します。
そのため、仮に期間満了後は普通建物賃貸借契約になるとすると「正当事由」が存在しない限り契約を終了させることができず(借地借家法第28条)、明け渡しを求めることが極めて困難となってしまいますので気を付けなければなりません。
定期建物賃貸借契約は、法律で定められた期間(契約期間1年以上の定期建物賃貸借契約においては、期間満了の1年前から6か月前まで)に終了通知を出せば、期間満了により契約を終了させることができる契約ですので、貸主としては、必ず法律で定められた期間内に通知を行うことを忘れずに対応いただきたいと思います。
なお、建物が転貸されている場合は、借主だけではなく“転借人”に対しても終了通知を送付しなくてはなりませんので、この点も注意が必要です。(借地借家法第34条)
また、終了通知の有無は、法的な判断を左右する重要なものとなります。通知の有無が後々のトラブルの争点とならないよう、一般郵便ではなく、内容証明郵便で通知を行うこともポイントになりますのでぜひ参考になさってください。